広報はぼろ2022年5月号掲載のコラム記事
「足がむくみます」という方は外来では少なくとも1日に1回は出会うありふれたものでめずらしいものではありません。おそらく経験のある方も多く、外来で相談することもあると思います。多くの場合、「肝臓と心臓と腎臓は悪くないですね。」と言われ、場合によっては利尿薬が処方されることもあります。実際ほとんどの場合で不要ですが、「薬出しておきますね」という医師と患者の互いの理由のない安心感で処方されることがあります。
「むくみ」を「浮腫」と私たちは表現します。なぜむくむのでしょうか。人間の体の60%は水分でできています。例えば体重が60Kgの方であれば、36Lもの水分が循環しています。そのうち、体の細胞には24L、血管に4L、それ以外の残り10L弱が細胞と血管の間を巡っています。この細胞と血管の間(間質と言います)の水分が増えてしまうのが「浮腫」です。この間質の面積はサッカー場に相当するとされますから、そこに10L程度では大したことがないように見え、多少増えても問題なさそうですが、血管から漏れ出た水分が多くなると、そもそもそれ以上拡げるスペースがない中では圧力が高くなり、皮膚が押されてパンパンになっていきます。間質に余分に貯まった水分が3L程度までならばゼリー状に変化させて対応できますが、3Lを超えてくると水として貯まっていきます。この水は「塩水」です。体の中にある水は、塩と一緒に動くと言っても過言ではなく、「塩水」という表現がよいでしょう。ですから、むくむ方はまず食事で摂取している塩分が適切なのかを見直してください。「気をつけている」という方であっても、むくんでいる場合はより塩分制限を強化する必要があります。
血管から漏れ出た水分は回収されなければいけませんが、血管とリンパ管の主に2通りの経路で回収されていきます。回収されるためには、体のタンパク質(アルブミン)の濃度も重要で、それが少ない場合にはうまく回収されなくなりむくみやすくなります。血管やリンパ管の循環が悪ければ(言い換えれば渋滞してしまう)、回収がうまくいかなくなりむくみやすくなります。静脈やリンパ管がきちんと働くには、その場所の筋肉が働かなければなりません。高齢者がむくみやすくなるのは筋力が低下するためと言えます。筋肉が少ないところ、めったに動かないところがむくみやすい部分です。肥満や同じ姿勢を長時間続けること、膝や股関節の変形、便秘でいきむことも原因となります。
まとめると、むくむ原因は「塩水」なので増やさないように塩分を制限すること、循環がよくなるように運動すること、肥満を改善すること、同じ姿勢でいないことが重要です。