広報はぼろ2023年8月号掲載のコラム記事
従来の医療は、医師が患者さんに関する問題点を洗い出します。例えば、「肺炎」「認知機能低下」「心不全」・・・などといった、病気や病状を中心としたものです。この地域のように高齢者が多くなると、一つの病気だけを抱えているという方は稀で、多くの病気を抱えていることが多くなります。そして、それに伴って、受診する医療機関が複数になる、薬の種類も複数になる・・・など、複雑化していきます。医師は教育の中で学んでいる正しい治療を全て患者に適用する傾向があります。この薬は効果があるようだから使おうと考えるのですが、そもそも薬の治験は、一つの病気しか持っていない人が選ばれているようなことが多く、つまり、先ほど述べたような多くの病気を抱えているような方は対象になっていないことになり、効果や安全性には十分注意する必要があります。そして、他の病気だけではなく、その方の生活環境や経済状況など「社会的な問題」も気にしなければなりません。薬でふらついて転んでも誰か見つけてくれるのか?薬で物忘れしても大丈夫?薬が増えても間違わないか?高価な薬の医療費を払えるのか?など、患者さんの治療負担も考えなければなりません。
羽幌病院では昨年度から入院される患者さんについて、「社会的な問題」を抱えていないかを中心に、担当職員がお聞きするようにしています。「社会的な問題」は血圧や体温、脈拍と同様に、生死に影響を与えるためです。当院で入院すると、9割以上の方に対して専属の退院支援担当者として社会福祉士または看護師がつきます。この方が、医師が従来挙げていたような身体的な問題点以外の社会的な問題点を明らかにします。
聴取させていただく点は病院として決めています。「人間関係(親戚・近所など)」「仕事や経済状況」「趣味や生きがい」「健康観」「食事や住居(お風呂やトイレの状況など)」「医療・介護サービスの利用状況」「本人の価値観」について網羅的に確認することにしています。ここまでのコラムで、このような社会的な問題を聴取する理由はなんとなくお分かりいただけるかと思いますので、御協力いただければと思います。
これを聞いていくことによって、私たちが気づいていなかったことを知ることができ、退院後の生活に向けて必要なサービスを見つけ、支援につなげていくことができます。