広報はぼろ2024年5月号掲載のコラム記事
前回、「認知症」とは、「認知機能が低下することにより、社会生活に支障がある状態」と言いました。裏を返せば、社会生活に支障がなければ、物忘れがあっても「認知症」となりません。「認知症が心配です」と外来で言われた時に、「生活で困っていることあります?」と私はお聞きしますが、「生活はできていますよ。」と言われると、これは認知症ではないことになります。外来ではそれで終わらせていることがほとんどです。それは、前回書いたように「本人が気にする物忘れ」は加齢によることが多いということもあります。「テストしないのですか?」と聞かれますが、「テストをして点数が悪ければ認知症」というものではなく、あくまで点数は診断にあたっての参考にすぎません。社会生活困難な方で、認知機能の低下がコミュニケーションをとる中で明らかであれば、点数をつけずに診断することもあります。逆に点数では軽度の認知機能低下であっても、その認知機能低下から社会生活に支障があると判断されれば「認知症」となります。認知機能の評価は正確に行うと20分から30分程度時間を要するため、通常の外来診療の合間では行うことが困難です(当院では気になる方には「フレイル外来」で評価が可能ですのでご利用ください)。
ただ、先ほどの外来の例で「生活で困っていることはない」というのは、あくまで患者さんご本人の発言です。後々家族の方から「生活ができていないんです」と言われることもしばしば経験します。認知機能低下を医師に相談する際は、ご本人任せにせずに、必ず家族が同伴することがベストです。
「認知症」には代表的な病気として、多い順に「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」、「前頭側頭型認知症」が挙げられます。それぞれ進行の経過や、症状など特徴的な部分はありますが、どのタイプの認知症か?と断定することは難しいことが多くあります。診断が曖昧であったとしても、そのこと自体は実は大きな問題ではなく、まずは支障をきたしている社会生活を改善するため、介護環境や適切なケアの整備が重要です。薬物治療については極論をすると病気のタイプごとに極端に違いはなく、副作用の出やすさに影響することはありますが、副作用に注意することはどの病気であっても同じです。薬の副作用、うつ病、甲状腺機能の低下、ビタミン不足などから認知機能が低下することもありますので、これら治すことができる認知症ではないか調べることも必要です。