広報はぼろ2024年10月号掲載のコラム記事
認知症の特集は先月までの予定でしたが、「認知症と運転免許更新」について知りたいとの声も聞きましたので、今回はその点について触れたいと思います。
認知症は記憶力や判断力、空間認識能力などに影響を与えます。これらの能力は安全運転に不可欠であり、認知症の進行によって事故のリスクが高まります。方向感覚が鈍ること、瞬時の判断力が低下することや、交通ルールを忘れてしまうこともありますし、加齢により反射神経が鈍化することもあり、認知症がなくても高齢者の運転には危険が伴います。「運転は上手だから大丈夫!」ということはありません。
2017年3月に改正道路交通法が施行され、75歳以上の運転者は免許更新時に認知機能検査を受けることが義務付けられました。「認知症のおそれがある」と判断された場合、医師の診断を受ける必要があります。外来で(当院では「フレイル外来」で相談を受け付けています)精密検査を受けて、認知症の有無などを診断を受け、診断書を提出することにより運転免許の継続の可否などを判断していきます。認知症とすぐに診断がつかない状態の場合は、半年後に再度精密検査を受けることで継続は可能ですが、その半年のうちに、今後の対応を考えておきましょう。なお、この認知機能検査で「認知症のおそれがある」と判定された方は約4%とされており、一般的に認知機能障害があるとされる割合よりは低いため、この検査で引っかからなかった方でも、その可能性があります。初期では自覚症状が乏しく、運転に支障があると感じていない方がほとんどですので、十分注意しておきましょう。
認知機能低下が運転に支障をきたす前に免許を返納することが、運転者自身の交通事故による被害や、社会全体の安全のためにも重要なことですが、個人の問題としては移動の自由を奪われることや生活の質が低下すると予想されることで、返納に対する不安から心理的な抵抗が強いと考えられます。高齢化が進んだ社会では、認知機能が低下した方が多くなる一方で、働き手が減少することから、公共交通機関などが衰退しています。運転免許の返納は、多くの高齢者にとって大きな決断です。特に公共交通機関が充実していない地域では、生活に大きな影響を与える可能性があります。免許返納後への支援は、家族や親族のみならず、地域社会全体の問題として取り組む必要があります。高齢者による自動車事故は、ハンドル操作のミス、アクセルやブレーキの踏み間違いが多いため、サポートカーへの買い替えなども事故を減らす有効な手段です。