広報はぼろ2023年2月号掲載のコラム記事
道立羽幌病院の救急外来で最も多い受診の理由は「外傷」で20%程度を占め、時間外以外にも「外傷」の患者さんは来院されます。「外傷」と一括りにしていますが、小さな傷から、交通事故、転倒による骨折など様々です。その「外傷」の中でも、体に傷を作った方には、「破傷風」のワクチンを接種するようにお話しすることがあります。
破傷風とは、破傷風菌の産生する毒素により、神経の障害や筋肉の硬直など運動障害をきたす病気で、致死率が50%程度とする報告もある疾患です。破傷風は紀元前1500年ごろにヒポクラテスがその症状を記録しているとされるほど古いのですが、原因となる細菌をはっきりさせたのは北里柴三郎で、明治時代になってからです。この細菌は土や泥の中に存在しており、傷口から体内に侵入することで感染を起こします。日本での年間発生件数は130例ほどと少なくなっていますが、これは日本ではワクチン接種が進んでいることも一因として考えられます。
破傷風に対する免疫は予防接種でしか得られず、生後1歳までに初回接種する四種混合ワクチン(1968年から2012年までは三種混合ワクチン)に含まれています(合計3回接種)。ただし、そこで得られた抗体は10年以上経過していると低下するため、外傷を負った際の破傷風予防が必要となります。とくに1967年以前に出生された方の場合は予防接種歴がないため、とくに注意を要します。傷を負った環境(屋内か屋外か)、刺さった材質、傷の形状、感染の有無などから、破傷風を起こす可能性が高い傷、低い傷を分類し、過去の接種歴を踏まえて判断しています。接種歴が不明または3回未満の場合は、傷の状況によらず接種します。また同時により速やかに抗体が必要と判断される場合は、破傷風免疫グロブリンという製剤を投与することがあります。3回以上接種されている方では、可能性が高い傷の方は、前回からの経過年数から5年以上、可能性が低い傷の方は同じく10年以上経過している場合に投与します。なお、外傷時の破傷風予防は保険診療となります。
新型コロナウイルスやインフルエンザなどワクチンの話は聞き飽きているかもしれませんが、外傷は誰でもいつでも起こりうるので、御自身の接種歴を母子手帳などがあれば確認するようにしておきましょう。